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サブカルチャー評論/レビュー/日常

土の匂いが立ち込める光のある画作りは『灼熱の魂』を「アカデミー賞外国語映画賞は本作であるべきだった」と言わしめた

灼熱の魂

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 2010年アカデミー賞外国語映画賞は『未来を生きる君達へ』が受賞した。僕はこの評価を妥当だと信じている。しかし『灼熱の魂』は、それでもなお「アカデミー賞外国語映画賞は本作であるべきだった。」と言わしめるに十分な本格的ミステリー作品だ。

 ミステリーというと、皆さんはどのような映像を思い浮かべるだろうか。血痕の残った部屋?硝煙の上がる銃?確かにそうであろう。しかし僕が思う一番の「ミステリー的な要素」とは「暗い映像」である。不思議さ=ミステリーの図式は主にこの映像から得られる主観である。

 ところがどういうわけか、『灼熱の魂』の映像の印象は終始明るいものであった。それは我々の住む現実世界との地続きを連想させる。この映画のモチーフの一つに各地の内紛がある。土煙が立ち込め、銃を持ったテロリストが殺害を実施する映像。当然それは現実と映画の倒錯を起こさせるが、その根幹をなすのがこの「明るい映像」である。

 この倒錯と、登場人物である母と姉弟による作劇。これらが緻密に計算された脚本の上で展開されていく。その圧倒的なストーリーと映像、そして終盤の謎解き。観客は圧倒される。息を呑む。それはただこの映画が内紛をモチーフにしているからというだけではなく、上述した最高の戦略によって得られる極上のカタルシスなのである。